宇宙暗黒物質(ダークマター)の探索


 銀河や銀河団の運動の観測から、宇宙には我々が観測出来るより少なくとも 1桁以上多い質量が隠されていることがわかっている。これは光ってないのでダークマター(暗黒物質)と呼ばれる。もちろんこの質量が通常の物質(原子核)からなる単に光らない天体を、我々が観測できないだけと考えても良いが、それは宇宙の元素合成の理論から排除される。宇宙がビッグバンから始まったと仮定すると、現在我々が観測する元素の存在比を計算することができる。元素の存在比(例えば水素とヘリウムの比)は宇宙のバリオン(原子核)密度に依存し、これと現在の宇宙に存在する元素の存在比を比較することで現在の宇宙のバリオン密度が推定できる。この結果通常の物質(原子核)の存在量は宇宙のダークマターの質量に遠く及ばないことが判明している。このためダークマターは未知素粒子という考え方が現在支配的である。未知素粒子は素粒子の統一理論からも予言されており、その存在の可能性は高い。

 近年になりフェルミ粒子(クォーク、レプトン等の物質をつくる粒子)とボーズ粒子(力を媒介する粒子)を同じ仲間と見る超対称性(スーパーシンメトリー)が多くの優れた理論的特徴をもち、統一論として有望視されている。この理論は我々が現在知っている全ての粒子に未発見の超対称パートナーが存在すること予言する。更にそれはダークマターの有力候補である。この粒子は原子核のスピンと相互作用をするのでダークマターの探索にはスピンを持つ原子核が必要である。当研究室ではCaF2検出器を使ってダークマターの探索を進めている。現在検出器 は理学部におかれており、地上での測定を進めている。いずれは奈良県五条市(旧大塔村)のトンネルに設置し超低バックグランド環境で測定を行なう。これはひたすら廻りからのバックグランドを避ける必要があり、気の長い努力を必要とする。一般的にはこういった測定はバックグランドを避けて土や岩石でシールドされた地下の深い所で行われる。イタリアのグランサッソ研究所がその例である。我々の検出器は現在地上の測定で他のグループの地下実験を既に越えており、ダークマターの検出に最も近い所にいる。