KN 実験の目的と方法

目的

今までに観測されている中性子星の質量は1.4倍の太陽質量のあたりに集中している。 中性子星は巨大な原子核ともいえるので核物質の状態方程式が分かればその質量を 予言することが出来る。通常の物質(陽子と中性子)だけで状態方程式を作り質量を 予言すると2倍の太陽質量近くまで存在できることになり、観測と矛盾する。これは 状態方定式にストレンジネスの自由度を入れることでほぼ観測値を再現できるように なることが知られている。ストレンジネスという新しい自由度が核物質の高密度化を 可能にし、重い中性子星をブラックホールにしてしまうためである。但し実際に高密 度核物質がストレンジネスを持てるかどうかはストレンジネスを持つ粒子が核物質と いかなる相互作用を行うかを知らなければならない。ストレンジネスは現実の粒子と しては核子の仲間のハイペロンかK中間子の中に存在する。ハイペロンと核物質との 相互作用はハイパー核の研究でかなりの知識が得られてきた。しかし一番鍵となると 思 われる $\Sigma$- 粒子は最近の研究でどうやら核物質との相互作用が斥力らしい事 が分かってきており、寄与は少ないのではと思われる。K中間子と核物質の相互作用 についてはK中間子と核子の散乱実験から引き出されたいわゆるKNシグマ項が 強い引力を示唆していることが知られていた。この事実を基礎にボーズ粒子である K中間子が核物質中で{ボーズ・アインシュタイン凝縮}を起こす可能性が指摘されて いた。もしそうであれば中性子星の中心はストレンジ核物質と言えるものであり、 中性子星の観測された質量を再現できる。KN実験ではこの可能性を検証するために K中間子と核の相互作用を調べることをK中間子核を生成することで行うことを 目的にしている。

方法

K中間子と核の相互作用を知るためにK中間子核の研究を行う。K中間子凝縮が 通常の原子核の数倍の密度の核物質で起こるためにはK中間子と核の引力を表す ポテンシャルの深さが核子のそれの数倍なければならない。こういった可能性は {KNのシグマ項}だけでなく、K中間子原子からのX線の観測で指摘されていた。 観測されたX線のエネルギーのシフトや幅からK中間子と原子核のポテンシャルが 200MeVと極端に深い可能性が指摘されていたが、残念ながらX線のデータはもっと 浅いポテンシャルでも再現でき、また最近の理論はむしろ浅いポテンシャルを再現 するので、確定的な事はいえなかった。 もし非常に深いポテンシャルであればK中間子が原子核に深く束縛した状態である K中間子核が存在することを岸本が指摘し、そのエネルギーを測定することで 相互作用(ポテンシャル)の大きさを知ることが出来ることが示された。 またK中間子核を生成する方法としてはin-flight K中間子を用いる (K-, n) 反応が 適していることが示された。 (K-, n) 反応では原子核にK中間子を直接注入でき るのでK中間子と核の状態の観測に適している。また in-flight のK中間子はでの 反応から生成される核子は反応で許されるほぼ最高エネルギーになり、バックグラン ドの少ない測定が可能になる。この方法でK中間子核の研究を進めK中間子核のポテ ンシャルを求める。