本研究で分かったこと

(K-,N)反応を用いてK中間子核を観測出来ることを示 せた。それは多くの常識 を破ったものであった。この反応を用いてK中間子核が生成できるという初めての 指摘を行った論文は運良く掲載された。その後実験をBNLに提案したとき、K中 間子としては深い束縛状態であるが、ハイパー核としては非常に高い励起状態に当 たる領域に狭いピークなど見えるはずがないという批判を強く受けた。深く束縛す ると崩壊のチャネルが狭まるので幅が観測可能なほど狭くなる可能性が高いとの議 論を展開したが、理解されなかった。運良くパラサイトで探索的な実験を進めること が出来たことが本研究の結果に繋がっている。 次にK中間子と核にポテンシャルの深さとして200MeVにも及ぶ強い引力があることを 示せたことである。この結果中性子星中心でのK中間子凝縮の可能性が非 常に高まった。非常に重要な結果であって確定すればその影響の大きさは計り知れな い。高密度核物質を理解するうえでK中間子の自由度を陽に取り込んだ解析が必要に なり、この方向の研究が大きく進むと考えられる。中性子星の理解に関してはニュー トリノクーリングの問題なども影響を受けると思われる。 こういった強い引力がどこから来るのかという研究も進むと思われる。強い相互作用 を行うハドロンはカイラル対称性の破れで質量を獲得しているというのが現代物理学 の理解であって、その破れは高密度核物質中で回復することでメソンなどは軽くなる。 このことは強い引力が働くことと同等であり、我々の結果は今までの常識を破るもの ではあるが自然に理解できていけるものと考えている。