レプトン数非保存と宇宙の物質生成(二重ベータ崩壊の探索)


 現在の宇宙には物質だけが存在し、反物質は実質的に無い。ビッグバンから始まった宇宙初期は超高温で、粒子と反粒子が同等に存在する素粒子のスープ状態だった。粒子と反粒子は対消滅するが、粒子が反粒子より100億分の1だけ多かったので現在の宇宙が出来上がっていることまで解明されている。しかし100億分の1といった微調整が最初からされていたとは考え難く、そうなる物理法則があったと考えるべきであろう。それを物理法則で説明するには2つの事を示す必要がある。

  1. 粒子と反粒子は転換できる(粒子数が保存しない)。
  2. 粒子の世界と反粒子の世界の物理法則に差がある(CPの破れ)。

 粒子数の破れはニュートリノに表れる可能性が最も高い。これは電荷をもつ粒子は電荷の保存則が粒子数を保存してしまうからくりがあるからである。これは二重ベータ崩壊の観測で証明できる。この場合ニュートリノはディラック粒子ではなく、マヨラナ粒子となる。一見奇妙と思われるかもしれないが、現在分かっている事実を論理的に考えて行くとそうとしか考えられない。我々はこの素粒子に対する現代物理学の認識を根本から覆す可能性を確実と考え、実験的な検証に取り組んでいる。(更に詳しく

 なおマヨラナはフェルミをしてディラックやアインシュタインを超えてニュートンやガリレオと並ぶ天才と言わしめた程才能豊かであったが、31歳の時に失踪してその後足取りはつかめていない。ただ非常に興味深い人であったことが残された数少ない資料から分かる。

 最近ニュートリノ振動が確認され、ニュートリノは質量をもつことがはっきりしたので、粒子数を破るマヨラナ質量の発見の可能性はほぼ確実になったと言える。しかし現在の世界の研究が進めている感度を超えて行かないと発見には届かない。我々は現在CANDLES検出器を建設して世界最高感度を達成すべく研究を進めている。我々のグループには運良くこういった研究を行う環境が整っている。現在建設して性能評価を行っているCANDLES III検出器は来年には神岡地下実験室(東大宇宙線研)に移設して研究を進めることになっており、そのための実験室の掘削も完了している。