研究紹介

非加速器グループ

CANDLES実験

CANDLES実験は、48Caの二重ベータ崩壊の
研究を通して、ニュートリノ質量を世界で最も高い
感度で測定することを目指す実験です。

二重ベータ崩壊

「二重ベータ崩壊」は、原子核の中で二つの中性子が、二つの電子と陽子に転換する現象です。この時、二つの反ニュートリノも同時に放出されます。この「二つの反ニュートリノが放出される二重ベータ崩壊」は、崩壊確率は非常に小さいですが、素粒子の標準理論の法則に従って起こる現象です。 一方、放出された反ニュートリノが原子核内でニュートリノに転換し、吸収されてニュートリノが放出されない二重ベータ崩壊が起こる可能性があるとされています。この「ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊」は、素粒子の標準理論では許されておらず、新しい物理法則の導入を要求します。

二重ベータ崩壊

ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊の重要性

ニュートリノのマヨラナ性

ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊は、ニュートリノが粒子と反粒子が転換可能なマヨラナ粒子である時に起こります。つまり、この崩壊が観測できれば、ニュートリノがマヨラナ粒子であることの証明となり、それ自体世紀の大発見です。このことは、ニュートリノのシーソー機構を裏付けることになり、ニュートリノが他の基本粒子に比べて極端に軽い理由を自然に説明できます。

マヨラナ粒子とは

通常、物質を構成するフェルミ粒子には反粒子が存在し、ディラック粒子と呼ばれています。特に電荷を持った粒子には反対の電荷を持つ反粒子が必ず存在します。電荷を持たない粒子には、粒子と反粒子との区別が付かないもの(マヨラナ粒子と呼ばれる)も存在出来ることが指摘されており、フェルミ粒子の中では、電荷をもたないニュートリノだけがマヨラナ粒子である可能性があります。ニュートリノがマヨラナ粒子なのか、ディラック粒子なのかは現在も大きな謎として残されています。シーソー機構という理論は、ニュートリノが他の基本粒子に比べて極端に軽い理由を自然に説明できますが、そこではニュートリノがマヨラナ粒子であることが前提となっています。

レプトン数(粒子数)非保存

またニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊は、崩壊の前後でレプトン数という粒子数を保存しません(レプトン数非保存)。この粒子数保存則の破れは、現在、我々が住む宇宙が物質だけの世界で、反物質は消えてなくなってしまった謎を解明する重要な手掛かりになると考えられています。

ニュートリノ質量と質量階層構造

最後に、ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊の半減期を測定できると、半減期とニュートリノ質量の間の関係式からニュートリノ質量の絶対値を導出することが出来ます。スーパーカミオカンデ実験をはじめとするニュートリノ振動観測実験で、ニュートリノに質量があること、ニュートリノの種類間の質量差が分かりましたが、質量の絶対値は未だ測定されていませんでした。質量の絶対値が測定できることで、ニュートリノの質量階層構造を明らかにすることができます。

ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊の測定原理

二重ベータ崩壊では、原子核の中で二つの中性子が、二つの陽子に転換し二つのベータ線(電子線)を放出して原子番号が2だけ大きい原子核に遷移する現象です。このとき解放されるエネルギー(崩壊のQ値)は、崩壊前後の原子核の質量エネルギー差で与えられます。

電子線のスペクトル

図で示すように、二つの反ニュートリノが放出される場合は、解放されるエネルギーの一部をニュートリノが持ち去るため、二つの電子線の運動エネル ギー和は連続的に分布します(連続スペクトル)。しかし、ニュートリノが放出されない二重ベータ崩壊では、ニュートリノがエネルギーを持ち去ることがないため、電子線の運動エネルギー和はQ値に一致し一定の値になります(単色スペクトル)。

このように、2つの電子線の運動エネルギー和を測定することで、ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊の観測を行います。

「ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊」は、「二つの反ニュートリノが放出される二重ベータ崩壊」よりも、さらに崩壊率が小さいと予想されています。そのため、観測をするためには、検出器のバックグラウンドを十分に低減させるなどの工夫を行なう必要があります。

CANDLES実験

「ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊」は、非常に稀な現象であるため、観測するには次の二点が重要となります。

大量の二重ベータ崩壊核を用意すること
低バックグラウンドの環境で測定すること

この二つを同時に満たすのは容易ではありません。大量の二重ベータ崩壊核を使用し測定装置を大型化すると、比例してバックグラウンドも増えるためです。そのためにCANDLES実験では、低バックグラウンド測定装置を開発しています。その後、濃縮した二重ベータ崩壊核を使用することで、測定装置を大型化することなく二重ベータ崩壊核を増やす、という方法を取る計画です。

CANDLES検出器の概念図

CANDLES検出器の特徴

二重ベータ崩壊核 48Ca同位体

CANDLES計画では、数多くある二重ベータ崩壊核の中で、48Ca同位体を使用します。48Caは、二重ベータ崩壊の際に放出される二つの電子線の運動エネルギー和が4.27MeVと自然界に存在する2重ベータ崩壊核でも最大です。この値は、環境放射線(γ線)よりも高いため、低バックグラウンド環境での測定を行いやすいという利点があります。具体的には、自然界に非常に多く存在して、大きいエネルギーのγ線として、208Tlがβ崩壊して208Pbとなって放出される2.6 MeVのγ線があります。バックグランドの問題はQ値がこの値より大きいか小さいかで大きく変わってきます。

しかし、48Caは自然物質の中の存在比が0.187%と極端に小さく、更にCa同位体は効率的な同位元素の濃縮方法が知られてないことが最大の問題です。大量の崩壊核を必要とする点から、二重ベータ崩壊観測にとっては、適当な同位体とは思われていませんでした。しかし、CANDLES計画では、検出器デザインが大型化容易な構造になっており、大量のCa同位体を用意することで、その問題点を解決します。

他方で、48Ca同位体の存在比が小さいことは、言い換えれば、同位体濃縮が可能となれば飛躍的に感度が上がるポテンシャルを秘めているともいえます。CANDLES実験では、困難とされている48Ca同位体の濃縮方法の開発研究も進めており、将来計画では同位体濃縮の実現を目指しています。

CaF2シンチレータ結晶

CANDLES検出器は、48Caを含んだフッ化カルシウム(CaF2)結晶を用いて二重ベータ崩壊の測定を行います。この結晶はシンチレータとして、放射線と相互作用をして紫外領域のシンチレーション光を放出します。ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊が起こると電子線の運動エネルギーがCaF2結晶内でシンチレーション光に変換され、その光を観測することでエネルギーを測定することができます。

CaF2結晶は、一般的にはカメラのレンズなどとして商用的に使用されているため、透明度が高く、かつ高純度の結晶が開発されていました。透明度が高い(光の減衰長が10m以上)であるため検出器を大型化してもシンチレーション光が減衰せず、正確なエネルギー情報を得ることができます。また、高純度(結晶の中に不純物が少ない)であるため、バックグラウンド要因となる放射性不純物も極めて少ない結晶の製造が可能です。

CaF2結晶

全方向アクティブシールド

CANDLES検出器は、心臓部のCaF2結晶が液体シンチレータの中に沈められている構造をしています。液体シンチレータもCaF2結晶同様にシンチレータとして働き、放射線と相互作用してシンチレーション光を放出します。ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊の信号はCaF2結晶の内部で全てのエネルギーを失いますが、バックグラウンドとなる自然界の放射線は、一部(もしくは全部)のエネルギーを液体シンチレータで失うことが多いため、2種類のシンチレーション光が放出されます。CANDLES検出器では、CaF2結晶と液体シンチレータから放出されるシンチレーション光を、同じ光センサー(大口径光電子増倍管)で同時に観測します。CaF2結晶から放出されるシンチレーション光は大よそ1000ナノ秒に広がっているのに対して、液体シンチレータから放出されるシンチレーション光の広がりは100ナノ秒以下であるため、両者の信号を分離することが可能です。このようにCANDLES検出器は心臓部であるCaF2結晶に入ってくる自然界の放射線や、CaF2結晶の中に僅かに含まれる放射性不純物によるアクティブに遮蔽する構造になっており、これによって強力にバックグラウンドを低減できます。

バックグラウンドフリー検出器

48CaのQ値の大きさのメリットと検出装置の工夫を重ねた結果、我々の研究グループで先行して行った実験ではバックグランドは全くなく、48Caの2重ベータ崩壊で世界で最も良い感度を達成しています。また、当面のスケールアップではバックグランドが見えてこないと予想されることを確認しています。

ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊の実験は、世界中で行われていて激しい競争になっています。CANDLES実験もその中の一つですが、実は他の実験計画では、既にバックグランドが見え始めています。ニュートリノの質量測定の感度を一桁上げるには、寿命の感度を二桁上げなければなりません(ニュートリノ質量と半減期の関係式から)。このためには、単純に考えれば検出器の崩壊核を100倍に増量すれば良いように思えます。しかしバックグランドが見え始めると統計精度の問題があり、感度を10倍にするためには、10000倍に増量する必要が生じます。しかし、バックグラウンドフリーの観測環境が実現できると、崩壊核を100倍に増量すれば測定感度を10倍にすることができます。これがCANDLES実験が目指す観測環境であり、現在計画中の検出器の中では、CANDLES計画だけが、バックグラウンドフリーの環境を実現できる可能性があると考えています。

CANDLES計画の現在・将来

現在、CANDLES実験では、305 kgのCaF2検出器を使用した検出器(CANDLES-III地下)を神岡地下実験施設に設置して、観測を実施しています。この観測においては、48Caの大きいQ値4.27MeVの利点が最大限に生かされ、CANDLES検出器でバックグラウンドフリー環境が実現できることを実証することが最初の目的です。

現在のCANDLES検出器

また、検出器の高感度化を目指して、検出器のエネルギー分解能向上と、自然同位体比が0.2 %と小さい欠点を克服して崩壊核を増量するため、48Caの濃縮に取り組んでいます。

実験施設

CANDLES
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